許嫁な二人
(15)
さっきから、斜め右前にすわっている女がやたらとちらちらと
こちらを見ていると思ったら、化粧室からでてきた壁際にひとりで
たっていた。
「私、飲みすぎちゃって、、、。」
「、、、、。」
「瀬戸さん、合コンはやく抜けるって聞いたから、
一緒に帰ってもらおうかと思って。」
面倒臭いなと思ったが、目の前の女はやたらと熱っぽい目で
透を見てくる。
(その気まんまんってことか、、、)
透は思った。
久しぶりに女の子をひっかけてみるのもいい、、
そんな気になって、かるく ”いいよ” と返事をした。
店をでて、駅まで歩こうとすると、酔っているのだということを
言い訳に、女は透の腕に手を絡めてくる。
歩きずらくて、いらいらして、、、
舌足らずな甘えた声がもれる、ルージュのひかれた赤い口をみていたら
さっきまで感じていた欲望が綺麗さっぱりぬけおちていた。
駅でタクシーをつかまえて、なんとかなだめて女を乗せると、
透は駅の階段をかけあがって、ちょうどやってきた電車にとびのった。
暗い窓にしけた顔がうつる。
あの頃もいつもこんな顔をしていた、と透は思った。
小里で唯に逢えなかったことで、無性にいらつく自分をどうにかしたくて
東京にでてきてすぐは、女をとっかえひっかえしてた。
でも、そんなことをしても傷ついた自分の心は宥められなくて。
また同じことをするところだった、、、と透は苦笑いをもらす。