許嫁な二人

   「学校見学?」



 そう問い返した唯に透はすぐには答えず、唯の視線からのがれるように
 顔をよこにむけた。

 そして横を向いたまま、ぽつんと言葉をおとす。



   「見てみようと思って、神道学専攻のある大学。」

   「ちょっと待って、それは、、、。」

   「東京だとそこ一校だけだけど、大学4年出てれば、
    1年通うだけで、。」

   「透くん!」



 唯の声に透は一瞬口をつぐんだが、はぁーとため息をおとすと
 話を続けた。



   「まだはっきり決めたわけじゃない、でも、このままで
    いいわけないだろ。」

   「でも、でもね、、、。」

   「見てくるだけだって。」



 透は明るく言うが、唯は鉛でも飲み込んだような気持ちだった。


  ”透、本当にがんばったの、小さい時からの夢を叶えて欲しいと
   思う”

  ”だから、なにも知らないし、何もしてこなかったあなたに
   透のまわりをうろうろされたくないわ”


 今でも、耳に残る冷たい声が、何度も唯の心の中によみがえる。

   (なにもしてこなかったどころか、私は透の夢を奪おうとしている)


 ”行ってくる”という透をカフェの中で見送って、唯はあの時と
 同じように、冷えていくコーヒーをただ見つめていた。
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