許嫁な二人

 唯たちは6年間すごした城元小学校を、あれから
 何事もなく卒業し、中学生になったばかりだ。

 あれから何事もなくと言ったけど、実はかわったことが
 一つだけある。

 修学旅行から帰ってきて、透が朝、唯を迎えにくることは
 なくなった。

 夕方の帰りもだ。

 あの時、透はきちんと落ち着いた声で、先生に事情を説明した
 他は何も言わなかった。

 何も言わない心の内で何を感じ、何を考えたのか、、唯には
 わからなかったけれど、朝、夕、一緒の登下校をやめたことが
 透の気持ちを表していると唯は思っている。





 透と唯が許嫁なのは本当の話しだ。

 それはもう、何代も前からの約束なのだと唯は聞いていた。

 そんな約束、もう現代社会では通用しないのではと唯は思う
 のだけれど、亡くなった唯の祖父の道成と透の祖父の巌の間では
 話がまとまっていて、まだ、透と唯が幼くて一緒に遊んでいた頃
 は、碓氷家と瀬戸家の縁組みが楽しみだ、と二人の祖父は口を
 そろえて言っていた。

 でも、透と唯が成長するにつれ、家族はそのことを口にしなくなったし
 誰もが忘れていたようなことが、なぜあの時、子供の口にのぼったのか
 不思議でならない。

 許嫁だという話は、その後もクラスの中で囁かれていたけど、肯定も
 否定もしなかった透と唯の態度と、あれからぷっつりとお互いの名前
 さえ呼ばなくなった二人をみて、いつの間にか忘れ去れていった。

 二人を結ぶはずの ”許嫁” という言葉は、皮肉にも二人を遠ざける
 ための言葉になった。




 その事を心の底で、本当は悲しく思っていたのに、唯はその気持ちに
 蓋をした。

 だって本当にあれからの透は、唯を居ない者のように扱ったから。

 城元小学校は、学級数も1クラスしかなく、何が何でも顔をあわせ
 なければならない透に無視されることは、唯を傷つけたけれど
 何校かの小学校から生徒が集まってくる、この規模の大きい
 桜下第二中学校へ入学してからは、透と顔をあわすこともなくなり
 唯はほっとしている。
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