許嫁な二人
透の家には、弓道場がある。
家に弓道場があるなんてめずらしいが、この桜下市は歴史のある
城をいただく城下町で、昔から弓道が盛んだ。
特に透の住んでいる城元地区は城を中心にひろがった本当の意味での
城下だったところで、江戸時代から続く家なんていうのが結構ある。
そういう透の家もそうで、祖先は城の主の身辺警護についていた
弓のうまい侍だったそうだ。
だから代々うけつがれた弓道場なんていうのがあり、
小学6年生の透は、毎朝そこを掃除するのが、祖父の巌から
言い渡された仕事なのである。
「ちぇっ、 今日は学校へ早く行って陽二たちと戦闘機の写真
を見るつもりだったのに。」
ぶつぶつ言いながらランドセルを置いて、バケツに水をためると
透は弓道場へむかった。
普通の家の弓道場だから、そんなに広くはない。
的もひとつあるだけだ。
透の家では、男はかならず弓道を習わされる。
だから透も、小さいうちから父や祖父の弓を引く姿を見て育ち
昨年5年生になってから、本格的に弓を習いはじめた。
透は特別、弓道が好きではない。
弓道よりも何よりも、透の心をつかんで離さないものは、飛行機だった。
いつか、飛行機をつくる仕事がしたい、、、それが透の夢だ。