許嫁な二人
弓道場のぞうきんがけを終えて、透はぼんやりと的の
方を見た。
小学校の時よりも、登校に時間がかかるようにようになり
朝の道場の掃除は、夕方、学校から帰ってからになった。
夕方といっても、部活を終えて帰ってくると、辺りはもう
薄暗くなっていて、その薄闇の中に、白黒で分けられた的が
ぼんやりとうかんで見える。
それを見ていたら、透は的に向かって立った、唯の姿を
思いだした。
部長が褒めていただけあって、唯の所作は美しく、矢は的の中心
にすっと入った。
見ていて、ほぅーとため息をつきたくなるような姿だった。
(それにしても、びっくりした)
弓道場の入り口に立った唯を見て、それこそ飛び上がる程
透はびっくりした。
体が弱いくせに、練習のきびしい弓道部に入ったのだと思ったら
”どういうつもりだ”と詰め寄りたくなった。
自分の体のことがわかっているのかと、、、。
でも透がそうしなかったのは、人目があったのと、修学旅行以来
ずっと唯を無視し続けた自分がエラそうなことを言える立場じゃない
と考えたからだ。
部長の説明で少しは納得したものの、やっぱり透の心配は
なくならない。
「透、掃除は終わった?夕ご飯よ。」
物思いに沈んでいたら、戸の向こうで母親の声がした。
「わかった、、すぐ行く。」