許嫁な二人
(5)
まだ時間がはやくて、だれもいない弓道場は、
しんと静かな空気に満ちていた。
唯はこの弓道場の空気が好きだ。
的を射るために立ち、ぴんと空気がはりつめる
時も良い。
他のどこでも味わえない独特の空気が、ここには
流れているような気がする。
矢場にゴミなどが落ちていないか、確かめて歩きながら
唯はほぅと息をはいた。
その時、ガタンと音がして、誰かが道場の中に入ってきた。
「あっ、、。」
練習道具をまとめて持って入ってきたのは透だ。
目が合いどうしようかと思ったとき、”おはよう”と声が
とんできた。
「お、おはようございます。」
おもわず敬語になってしまった唯を透はちらりと見たが
何も言わずに、目をそらしてしまった。
そして黙々と練習準備をはじめる。
まだ他の部員はやってこない。
二人っきりは気まずい。