許嫁な二人

 瞬間、唯はそれを言った諸井の口を塞ぎたくなった。

 碓氷の姫という言葉を、透の前では言ってほしくなかった。



   「一度話してみたいと思っていたんだ。
    俺、歴史に興味があって、、、。」



 目の前で動く諸井の口許をみながら、唯の神経は
 斜め後ろにいる透にむかっていた。


  (聞かれているだろうか、この会話を、、、)



   「でさ、今度家に遊びにいかせてほしいんだ。」



 諸井の最後の言葉だけが耳に届いて、唯は曖昧に頷いた。



   「やった、約束だよ。」



 言いたい事だけ言うと、諸井はさっさと唯から離れていき
 透の方へ近づいていった。

 同じように自己紹介をしているようだ。

 その声をぼーっと聞いているうちに、何人もの部員があらわれて
 弓道場はとたんに騒がしくなった。
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