許嫁な二人

 自転車のそばで、集まってきた部員を見渡していると
 端っこの方にいる透と目が合った。

 すかさず、少しだけ目元をやわらげて透が笑った。

 唯も、他にはわからぬようにそっと口の端をもちあげて
 笑みを返した。

 終業式の日に一緒にバス停まで歩いてから、透は目が合うと
 こうして笑みを返してくれるようになった。

 話しかけてくることはないが、目が合っても無視されていた
 頃にくらべると雲泥の差だ。

 透の中でなにがどう変わったのかわからないが、唯はうれしくて
 思わずニヤけてしまいそうになる。

 だから、そんな唯をじっと見ている目があることに、唯は
 全然気づかなかった。
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