許嫁な二人

 それこそ唯の努力の甲斐あってか、熱はさがり
 おかしかった喉の調子もよくなって、唯は修学旅行
 に参加することができ、乗り込んだバスの中でほっと
 胸をなでおろした。



 唯は4グループだから、ちょうどバスの真ん中あたりに
 座っている。

 騒がしくおしゃべりをしている周りの子達の姿をよけて
 ぐるりと首をまわすと、後部座席の右端に透が座っているのが
 見えた。

 透は窓の方を見ているが、隣にはクラスで一番美人の佐伯さん
 が座っていて、透の方に身を乗り出すようにして、何か熱心に
 しゃべっている。

 そんな二人の姿を見たら、なぜか胸がどきんと鳴った。

 窓の方へむけている顔を時々佐伯さんの方へむけて、透も
 何か一言、二言、話をしている。

 それを見たら、今度は目を逸らしたくなって、唯は目線を
 前にもどすと、前の座席についている取手をぎゅうと握った。


 見たくない、、、と思って前を向いたのに、後部座席が気になって
 しかたがない。

 聞こえる訳がないのに、必死に耳を澄ませて、唯は佐伯さんと
 透の会話を聞き取ろうとした。


  (ばかだな、私。回りがこんなにうるさいんだもの、
   聞こえる訳がない)


 そう思ったところで、急に隣の席の良世が話しかけてきた。



   「唯ちゃん、修学旅行来れてよかったね。私、心配しちゃった。」

   「うん、本当に来れてよかった。」



 そうはにかんで唯が答えると、丸い顔を綻ばせて良世が笑う。



   「気分悪くなったら言ってよ。」

   「うん、ありがとう。」



 人の良い良世らしく、優しい言葉をかけてくれた。
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