雨のようなひとだった。
思い出しムカつきを覚えたところで、リリンと涼しい音が耳に届いた。
少し遅れて扉の閉まる音がして、タタタと小さな靴音が近づいてくる。
すぐに振り向くことはしない。
気付いたことには気付かれないようにする。
飼い主が戻ってきてすぐに尻尾を振って喜ぶ犬のような真似はしない。
くだらないプライドだけど、大事なプライドだ。
「すみません、遅くなりました」
裏口についている鈴の音よりも涼しくて軽やかな声がすぐ傍にきてやっと、今気付いたと言わんばかりの顔を作ってそちらに振り向く。