雨のようなひとだった。

 一緒に暮しはじめた頃こそ何度か鉢合わせもした。
 ……やっぱ、ダメだった。
 自制心という名のプライドを総動員していても、湯上がりだけは無理だと思う。僧侶でも無理なんじゃないかと思う。
 シャンプーもコンディショナーもボディソープも俺とは違うものを使っている上に彼女自身がいい香りを纏わせているので、無理だ。

 新しい部屋が見つかるまでという期間限定の同居生活が真冬で助かった。
 もしも夏だったら、先に帰宅していることのある彼女がシャワーを浴びたあと「おかえりなさい」とか言って俺を出迎えてくれるようなことがあったら、俺は倒れる。いろんな意味で。
 今だって、残業で遅い帰りになった時自室に居たのにわざわざドアをあけて「おかえりなさい」と声をかけてくれる彼女を前に抱きしめたい衝動でいっぱいになるのに。



 
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