雨のようなひとだった。
俺は左手で頬杖をついて続ける。
「なんか、マスターと似てるなって」
「……というと?」
「俺国語とか苦手だから失礼になったら申し訳ないんですけど……なんだろ、拒まない、というか」
初めて訪れた日の事は良く覚えている。
自分へのご褒美なんて結城に知られたら「女かよ」とでも言われそうな理由でブラついていた先にあったのがここだった。
………ご褒美の他はなかった。新規の大型プロジェクトでいい手応えを得られたことの。
なのにあの日、ブラックを注文した俺にマスターは言った。
『今の貴方には少し甘さを足した方が良いかもしれませんよ?』
決して押し付けがましくなく、諭すように言った。
俺はその言葉に胸が詰まって泣きそうになってしまい、ぎゅうと目頭を抑えて『思いきり甘くしてください』と小さく落としたのだった。