雨のようなひとだった。
俺も一応男だ。
同じ屋根の下に少なからず想っている女がいれば、隙あらばという考えを持つのは当然だ。
だけど、彼女には絶対的な武器がある。
笑顔で「信頼している」と言われたことも勿論だが、誰よりも彼女の姿を捉えたいと望む反面目に入ってきて現実へと引き戻される感覚が常に付きまとう。
握りしめた両手を開いて、指をじっと見つめた。
ごつごつしていて大きさだけは誇る俺の手。
金属を付けることがあまり好きではないから、ずっとまっさらな手。
対して彼女の左手薬指には、鈍く光る銀色の指輪が嵌まっている。
『……なんで、俺んとこ転がりこんだんですか?』
――――同じ指輪を持つ相手がいるはずなのに。
答えを知るのが怖くて、一度も訊ねることが出来ずにいる。
理由も知らず、彼女に「全て忘れてください」と押し倒すほどの勇気が、俺にはない。