雨のようなひとだった。
しとしとと降り続ける雨が見えないかのようにぼんやりと立っていた彼女を見つけたのは、仕事の帰り。
信号と車の灯りが飛び交い、細い雨が反射して銀色に光っている世界から浮いたように彼女は居た。
まるでそこだけ時間が止まっているような。
彼女だけが、浮いて見えた。
「……マキ、さん?」
差していた傘を傾けて彼女を雨から遮り、おそるおそる声をかける。
名前を呼んだのはこの時が初めてだった。