雨のようなひとだった。
喫茶店の制服である白いシャツ。
向かって右側の胸元に小さな名札がプレートとなってついており、【MAKI】と記してあるのを知っている。
喫茶店のマスターが『マキちゃん』と呼んでいたのも何度か聴いた事があった。
知っているだけだった彼女の名前を口にするだけで緊張するなんて、本当に、いい年をして気味が悪い。
「…………」
「……?あの、マキさん?」
しかし今は己の気持ち悪さなどどうでもいい。
目の前の彼女はゆっくりと俺の方へと首を動かして確かに俺を見ている。
それなのにまるで反応がない。
店で顔を合わせる彼女とはまるで別人だ。