雨のようなひとだった。
マスターが「マキちゃん」と呼び、ネームプレートにも『MAKI』とある。
本名じゃないならマスターさえ彼女の名を知らないという事だ。
(それはさすがに……)
「あの」
振り切るように俺が頭を左右に振ったタイミングで、彼女が俺の裾を遠慮がちにひっぱりながら声を掛けてきた。
「ん?どうしました」
「いえ……あの、青……なので」
「あ」
ドン、と後ろから来た人にぶつかり謝りながら彼女を促す。
少し遅れてついてこようとした彼女の背を誰かが押しかけて俺へと倒れ込みそうになり、慌ててその肩を抱き寄せて先を急いだ。
「……あ…ありがとうございました」
渡りきったところで肩を小さくした彼女が俺を押しのけようとする。
そこで不思議なことに気が付いた。