雨のようなひとだった。

 沈黙がおりたのはほんの数分。
 でも俺にとっては数時間と思えるくらい長かった。

「気を使わせちゃってごめんなさい。……おうち、帰りましょう」

 何かを振り切ったように今度こそ笑顔を作り直した彼女に、冗談めかして肩を叩かれた。
 俺は気を使ったわけじゃない。
 臆病なだけだ。

「………」

 格好がつかなさすぎて返事が出来ない。
 だから、代わりに。

「………え?」

 小さく聴こえた彼女の驚いたような声。
 彼女より先に歩き出しかけた俺は、前を向いたまま手を差し出した。

「………帰りましょう」

 ようやく絞りだした情けないくらい小さな俺の声に、彼女は返事の代わりに手を重ねる。
 ゆっくりといつものように歩き出しながら俺はふと思った。




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