雨のようなひとだった。
彼女は天使でも花でもなく、ただの女性だ。
いい年して女に幻想を抱いているわけでもないけど、少なくとも俺が思っているよりは――“思い込みたい”に近いかもしれない――彼女はきっと狡くて、弱い。
俺だって狡いし弱いし煩悩まみれもいいところだ。
千歳にフラれて半ば自棄になりかけていた時に出逢った天使だなんてイメージを勝手に彼女に押し付けて、そこから外れたら戸惑って。
(ガキかよ)
胸ポケットにしまっている煙草の僅かな重りに未だ胸がちくりと痛む。
彼女に煙草臭いと思われたくなくて本数を減らしつつあったのも事実だが、千歳のことを思い出すからというのも本音だった。
彼女が傍に居れば千歳を忘れられる気がした。
彼女を利用して、自分の中にある後悔やダサいくらい引きずったモノの全てに気付かないフリをしていた。