雨のようなひとだった。
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「……嫌がらないんですね」
ひとつ息を吐いてから訊いたのは、少しだけ意地悪心が働いたからだ。
指を絡ませ家まで歩き、玄関の鍵を開けて中に入った瞬間手を引き寄せて抱きしめ―――今に至る。
個室が2つあるとはいえ元はひとり暮らし向けの部屋だ。
大人がふたり立ったまま抱き合っているだけでギリギリの、広くない玄関。
何も答えない彼女の身体を抱きしめる腕に力をこめて、もう一度訊く。
「嫌がらないんですね?」
「…………」
最初こそ少し身じろぎしたものの、あとは大人しく俺の腕の中に収まっている。
俺は今どんな衝動から彼女を抱きしめているのか実は自分でもよくわかっていなかった。
初めて付き合った学生でもあるまいし『好きな子を前に頭が真っ白になって』ってのはない。