雨のようなひとだった。
おそるおそる俺の背へ腕が回り、そこにぎゅう、と力が入った。
彼女が俺に抱きついた。
彼女が俺に抱きついている。
カノジョガオレニダキツイテ
「いやいやいやいやちょっと!!!!」
思考回路が一瞬にしておかしくなりかけて慌てて彼女を引き剥がす。
突然狼狽した俺をぽかんと見つめた彼女は、反撃とばかりに小悪魔的な笑みを浮かべた。
そんな顔は初めて見る。
いつも花のように穏やかに笑っていて爽やかで―――
「だがそれもいい」
「……何言ってるんです?」
「いやっ、何でもないですっていうかなんでまた抱きつこうとしてるんですか」
「最初にしてきたのはそっちじゃないですか」
「そうだけど……予想外っていうか」
「そういう反応されると、ますますしたくなりますね」
ふふ、と今度こそ天使のように笑った彼女が俺へ近づいてふわりと身体を寄せてくるのを、まるでスロモーション映像を見ているかのような錯覚に陥った。