雨のようなひとだった。
「……勝手に名前借りて、家にまで押しかけて言うようなことじゃないんですけど」
「いや部屋に呼んだのは俺ですよ」
「………じゃあ、結婚してるのに他の男性の家で暮らした女が言うことじゃないですけど」
「………」
そこを自分で突かれてしまっては痛い。
俺には何も言えない。
「真己さんとお話する時間はいつも……息がしやすくて」
「息が?」
「子供みたいな手の繋ぎ方をしていた時も、さっきみたいな恋人繋ぎをしてくれた時も、……不思議なくらい落ち着いたし、息がしやすいんです」
「息が……しやすい……」
彼女の言葉の意味がよくわからない。
だけどそう言う声はゆったりと穏やかで、俺が惹かれた花のような彼女なんだということだけはわかった。