雨のようなひとだった。
彼女自身の狡さを彼女はわかっていて、だからこそ深く言及しないのだろう。
あの夜の様子を見れば身を裂くような何かが起こっていた事くらい軽く想像できる。
でも、だからといってそれを俺に話したところで俺に“甘え始め”ても良かった理由にはならないと、彼女の声色からうかがい知ることが出来た。
「俺は甘えてくれて嬉しかったですよ」
「………」
「本当に。だって可愛いなーって思ってた女性と同じ屋根の下ですよ。妄想もしたし」
「えっ」
「反撃。……嘘。俺も男ですからね、当たり前でしょ」
「………」
「指輪のこと黙ってたのだって、言ったら出てっちゃうだろうなって思ったからだし」
「………」
「だから何で言っちゃうかなあ……」
ぎゅ、と絡めた指に力を込める。
きゅ、と絡めた指に力が返ってくる。