雨のようなひとだった。
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「ヤッベェ暑ィ」
「アイス珈琲アイス珈琲」
「いらっしゃいませ」
カランという音と共に結城と俺は空調の効いた店内へ入った。
思った通り、涼しい風が汗ばんだ首をさらさらと撫でてくれる。瞬間爽快だ。
「マスター、ふたりともアイスでお願いします」
「かしこまりました」
視線を合わせて注文すると即座に微笑みで会釈をしてくれるマスター。
室内の面積も照明も来る人々も、俺にとっては落ち着いてやまない好ましい喫茶店。
連れと来てもひとりで来ても心地よく迎えてくれる店に、美味い珈琲。
この店と見つけた時から何ひとつ変わらない、
いや、違う。
ひとつだけ変わった。
今、ここには花のような笑顔を咲かせる店員はいない。