雨のようなひとだった。

 それでもこの店が俺の贔屓だということは変わっていない。

「お待たせ致しました。アイス珈琲おふたつです」
「アリガトー。……君、新人さん?」
「ハイ!」
「そっか。頑張ってね」
「あっ、ありがとうございます!」

 カラリコロリと氷がぶつかるグラスをふたつ、おっかなびっくりトレイに乗せて運んできてくれた女の子に結城は礼がてらそんな事を言う。
 相変わらずだなとため息をつきそうになって自分のグラスに手を伸ばすと、ビシビシと俺へ注がれる視線を感じた。

「……何だよ結城。男に見つめられて喜ぶ趣味はねぇぞ」
「俺だって見つめるならお前より女の子がいいわ」
「ハァ?何だよじゃあ見んな」
「いやさー」

 ズズズと音を立ててストローで珈琲を吸い上げた結城は目を細め、睨んでいるのか憐れんでいるのかよくわからない顔をして俺を見た。






 
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