雨のようなひとだった。
「珍しくね?お前が俺の話聞いてくるなんて」
訝しがりながらも気分良さそうに今期ターゲットの女の子についての結城の話を耳に流しながら、俺はさっきの女の子へと視線を向ける。
まだ初々しさの残る新人店員。
トレイにいくつも乗るグラスやカップは意外と重い。それを感じさせない笑顔を浮かべながら客へと振る舞うのが仕事だ。
(……あの人もいつも笑ってたな)
彼女が姿を消したのは、あの夜が明けた時だった。
予想してたから特に驚きもせず、まだ体温の残るベッドのシーツを撫でて朝を迎えた。
ふと右手を眺める。
彼女の髪を撫でて彼女の手に触れた、俺の右手。
話を続けている結城を視界の端に収めたまま、今度はマスターへと視線を遣った。