雨のようなひとだった。
彼女が居なくなったあの朝、俺は仕事前にここへ寄った。
まだ開店には早すぎたはずなのにマスターは店の前にいて、まるで俺を待っていたようだった。
目が合うと寂しそうに笑ったのをよく覚えている。
『おはようございます。……マキちゃん、来ましたよ』
『……おはようございます』
『わかっていたという顔ですね』
『ええ……まぁ』
『そんな君に、懺悔をひとつします』
『え?』
―――マスターにも言わないと
瞬間、そんな風に言っていた彼女を思い出した。
『もしかして……マスターが彼女の親戚でも何でもないってことですか?』
『……気付いていたのですか』
『いや。昨日彼女からマキは偽名だと聞いたので、もしかしたらって』
『………そうですか』
そうですか、ともう一度口の中で呟くと、マスターは頷いた。