雨のようなひとだった。
『……消えてしまうかと思ったんですよ』
『え?』
『あの子……この店のすぐ近くにいたんです。朝からずっと。荷物も持たずに』
『え』
『顔色は真っ白で表情に覇気もなく……放っておけなくて、店仕舞いのあと外を見遣ってもまだいるもんだから、入るように言ったんです。断固として断られたんですけどね。目もぼんやりしていたのに、ご迷惑はかけられませんと何度も』
想像できてしまってつい笑った。
すみませんと頭をさげると、いいんですよと返したマスターは懐かしそうに目を細めて話を続けた。
『何とか入ってもらったんですが、いかにも訳ありという風で。話は聞きませんでしたが、女の子がひとりで家もなしにうろついているのは危険ですし』
『それで、雇ったんですか?』
『そういうことです』
彼女を信頼してのことだろうが、マスターもなかなか大胆な事をする。
もしも彼女が詐欺師や泥棒だったらどうするつもりだったんだろう。