ゼロの相棒
辺りを見回すと、さっきまで騒いでいたはずの町の人たちが一人も外を出歩いていないことに気がついた。
宿屋について、マリーさんに事情を話すと、彼女は少し暗い顔で言った。
「この町は、魔獣にひどくやられた時があってね。
それから町のみんなは被害を恐れて高い壁を作って、魔獣が町に寄ってきた時は一斉に家にこもるようになったのさ。」
私はここに来るまでの途中にあった
崩壊した建物が頭をよぎる。
確かにあれが目の前で起こったとすれば、恐怖に怯えることも不思議ではない。
「魔族狩りが起きると、必ずと言っていいほど強い魔力が町の周りに流れるから、魔獣が寄って来るんだよ。
だからここに住んでいる者はみんな、魔族狩りに敏感だ。」
マリーは頬杖をついて、フロントの横についている窓から外を見ながら言った。
確かにさっきの、ジンが巻き込まれた魔族狩りの時も、町の人々は必要以上に騒いでいたような気がする。
「マリーさん。この宿にまだ僕が一人泊まれる部屋は空いてる?」
ジンが身を乗り出して尋ねる。
「えぇ。空いてるわよ。ちょうどフィオネさん達の隣の部屋ね。」
ジンはほっとしたようにニコッと笑った。
「ゼロ!…というわけだから、これから僕の部屋に集まって、久しぶりに昔の思い出でも語ろうよ。」
ジンは私とゼロを見ながら言う。
ゼロは腕組みをして少し考えた後、
「これから町に出ても、店も閉まっているかもな。
……特に語るようないい思い出なんかないと思うけど。」
と言って部屋へと歩き出した。
ゼロは口ではこう言っていたが、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。