早春譜
 「でもどんな仕事も同じに大変なんだって言ってたよ」


「それもそうね。先生も大変ね。特に女子高生にもてる先生はね」


「は? もしかしたらヤキモチ?」


「違います」


「ほれ、顔が膨らんだ。詩織の顔は見ていりゃ解る。すぐに出るからな」


「もう……意地悪」


「さては俺に惚れたな」

言ってしまってからハッとした。
まだ二人が本当の兄妹なのかと聞いてもいなかったことに気付いて……




 「俺には親父の思い出しかないんだ」

その言葉に詩織もハッとした。
やはり二人は兄妹ではないのかと思って……


「先生。節分俳句会のことだけど……」

詩織は話題を変えようと思いそっと淳一を見た。
淳一の顔が少し暗く感じた。




 「節分俳句会の時は兼題題だったからな。今までの自由句とは違い、難しかったろう」


「はい。とても」


「皆そうやって基本を学んでいくんだ」


「私も何とか句会のノウハウを覚えられました」


「良し、それじゃテストするぞ。一番先に渡す紙は?」


「短冊です。それに一句ずつ書いていきます」


「じゃあ、次は何をする?」


「折った短冊を箱に入れてシャッフルします。それを各自で選んで、清記用紙に書きます」


「次は?」


「中心人物からアラビア数字で時計回りに清記用紙に番号をふります。その用紙の右端にカギカッコを書いて中に漢数字を書き入れます」


「お、良く勉強したな。偉い偉い」


「もう……子供扱いしないでください。部長……あっ、同好会会長としたら当たり前のことです」


「そうだったな。まだ同好会だったんだな。そろそろ校長先生にお伺いたててみるかな?」


「あっ、よろしくお願い致します」


「それじゃ続だ。数字を書き込んだら……」


「えっ、まだ続くのですか? 解りました。次に反時計回りに清記用紙を回します。それを半紙に番号と一緒に写します」

詩織はため息を吐いた。
チョコより甘い一時を夢に描いていた。
でも実際のバレンタインデーはその微塵もなかったからだ。


「その中から自分の選句した作品を別な用紙に書きます。私だった工藤選。でも工藤が二人いますので名前まで書きます」

それでも詩織は続けた。


「その選句用紙を中心人物が読み上げます。他の人は自分の写した用紙を見ながら、得点を書き入れます」


「良し、完璧だ」

淳一の言葉を聞いて詩織は胸を撫で下ろした。





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