早春譜
「違うの。兄貴達今日から朝練三十分早いんだって。今年こそ、甲子園を目指そうって。それなのに……」
美紀の話が終わるか終わらないかのうちに、正樹は二階に駆け上がっていた。
美紀にときめいている自分に気付き、照れくさくなって逃げ出したのだ。
子供部屋に入った途端、直樹と目が合った。
「今日から朝練三十分早いんだろ?」
正樹は直樹を促した。
直樹はハッとして目覚まし時計の上部ボタンを押し、急いで二段ベッドのハシゴから降りた。
下のベッドで手すりから零れんばかりに、大の字になって寝ている秀樹を起こそうとした。
正樹はそれを止めて、直樹を部屋から追い出した。
「コリャー!! 何時まで寝てる!!」
正樹は気持ち良さそうに眠っている秀樹の布団を一気にはいだ。
悪戯好きの正樹は、平成の小影虎の異名を持つ元プロレスラーだった。
オーナーが、上杉謙信のような大物になれと言って、名付けてくれたのだった。
正樹は体は小さいが、パワーはダントツだったのだ。
そんな正樹に叩き起こされたら、幾ら寝坊助の秀樹もひとたまりもなかった。
実はコレがやりたくてワザと先に直樹を追い出したのだった。
正樹はそんな少年の心を持ったまま大人になったような人だった。
でも本当は……
美紀を見てドキドキしている気持ちを正常に戻すためだった。
急に大人びた娘に思いがけず取り乱した正樹。
所謂照れ隠しだったのかも知れない。
「今起きようとしていたのに」
秀樹はぶつぶつ言いながらやっと体を起こした。
目覚まし時計を見ると、まだ鳴っていなかった。
「な……何なんだよ親父?」
それだけ言うのがやっとだった。
秀樹はまだ訳が分からずきょとんとしていた。
「何が、朝練だから、何時もより三十分早く起こせだ」
正樹は秀樹を一括した。
それでもまだ秀樹はポカーンとしていた。
「あっ、そうだった!」
秀樹はやっとことの成り行きに気が付いて、慌てて飛び起きた。
「やべー。目覚ましそのままだった!」
秀樹は急いで直樹を起こそうと二段ベッドのハシゴをよじ登った。
「アホ。もうとっくに起きてるわ」
すかさず言う正樹。
それでも秀樹は、その場にいた。
突然の正樹の襲来に、心が動揺したままだった。
「脅かし過ぎたか?」
「当たり前だよ親父……」
秀樹は頭を掻きながら、正樹の後を追うようにカウンターの席に着いた。
美紀の話が終わるか終わらないかのうちに、正樹は二階に駆け上がっていた。
美紀にときめいている自分に気付き、照れくさくなって逃げ出したのだ。
子供部屋に入った途端、直樹と目が合った。
「今日から朝練三十分早いんだろ?」
正樹は直樹を促した。
直樹はハッとして目覚まし時計の上部ボタンを押し、急いで二段ベッドのハシゴから降りた。
下のベッドで手すりから零れんばかりに、大の字になって寝ている秀樹を起こそうとした。
正樹はそれを止めて、直樹を部屋から追い出した。
「コリャー!! 何時まで寝てる!!」
正樹は気持ち良さそうに眠っている秀樹の布団を一気にはいだ。
悪戯好きの正樹は、平成の小影虎の異名を持つ元プロレスラーだった。
オーナーが、上杉謙信のような大物になれと言って、名付けてくれたのだった。
正樹は体は小さいが、パワーはダントツだったのだ。
そんな正樹に叩き起こされたら、幾ら寝坊助の秀樹もひとたまりもなかった。
実はコレがやりたくてワザと先に直樹を追い出したのだった。
正樹はそんな少年の心を持ったまま大人になったような人だった。
でも本当は……
美紀を見てドキドキしている気持ちを正常に戻すためだった。
急に大人びた娘に思いがけず取り乱した正樹。
所謂照れ隠しだったのかも知れない。
「今起きようとしていたのに」
秀樹はぶつぶつ言いながらやっと体を起こした。
目覚まし時計を見ると、まだ鳴っていなかった。
「な……何なんだよ親父?」
それだけ言うのがやっとだった。
秀樹はまだ訳が分からずきょとんとしていた。
「何が、朝練だから、何時もより三十分早く起こせだ」
正樹は秀樹を一括した。
それでもまだ秀樹はポカーンとしていた。
「あっ、そうだった!」
秀樹はやっとことの成り行きに気が付いて、慌てて飛び起きた。
「やべー。目覚ましそのままだった!」
秀樹は急いで直樹を起こそうと二段ベッドのハシゴをよじ登った。
「アホ。もうとっくに起きてるわ」
すかさず言う正樹。
それでも秀樹は、その場にいた。
突然の正樹の襲来に、心が動揺したままだった。
「脅かし過ぎたか?」
「当たり前だよ親父……」
秀樹は頭を掻きながら、正樹の後を追うようにカウンターの席に着いた。