早春譜
工藤淳一の秘密
「ごめん。これしか売っていなかった」
淳一はそう言いながら三個入りの紙オムツを詩織に渡した。
その時、写真が落ちた。
慌てて淳一はそれを拾った。
良く見ると《前向きに生きればこその春隣り》と書いてあった。
「あっ、これは校庭の桜なんだ。根元に咲くなんて初めて見たから……」
「思わず撮影したってことですか? 工藤先生ってロマンチストなんですね」
詩織の指摘に淳一は思わず顔を赤らめた。
「これを頼むにどんなに恥ずかしかったか解るよ。だから誰にも言わない。もし体に傷が残ったとしても……責任は俺が取るから」
「責任って? 確かさっきも……」
「結婚ってことだ。卒業したら、俺がもらってやる。いや、違うな。俺は君に惚れた。だから俺と付き合ってくれないか?」
「そんな……私にだって選ぶ権利はあるのに」
「解ってる。それでも、結婚することを前向きに考えてくれよ。勿論、誰にも内緒だよ」
詩織は淳一の言葉に頷いていた。
「勿論私が高校を卒業したらですよね?」
「そのつもりだけど」
「だったら大丈夫。絶対に治してみせる。だから心配しないでくださいね」
詩織はこの時、本気で淳一の負担を軽くすることを考えていたのだった。
勿論、淳一との結婚は嬉しい。
詩織は、淳一がプロポーズしてくれたのだと考えていた。
でも今回の事故の責任を淳一が背負うことはないと思っていたのだった。
実は淳一は自分の発言に驚いていた。
そしてそれによって、何故事故が起こったのかを思い知らされていた。
朝自転車置き場で詩織に会った時から、それが何なのかも知らないで浮かれていた。
その思いにやっと今気付いたのだ。
それは紛れもなく恋心だったのだ。
淳一は校庭に咲いていた桜の写真を撮っていたのだ。
何故それが気になったかと言うと、木の根元に花が咲いていたからだった。
(みんな生きているんだな)
淳一は感動していた。
その後で自転車置き場でおしゃべりしていた詩織に惹き付けられてしまったのだった。
詩織は自分の不注意を悔やんでいた。
《前向きに生きればこその春隣り》は本当は晩冬の季語だ。
それでも敢えて写真の裏にそれを書いた。
淳一は自分の思いを伝えようとプリントしてくれていたのだった。
健気に生きる桜。
その姿を詩織に見てもらいたかったのだと思った。
淳一はそう言いながら三個入りの紙オムツを詩織に渡した。
その時、写真が落ちた。
慌てて淳一はそれを拾った。
良く見ると《前向きに生きればこその春隣り》と書いてあった。
「あっ、これは校庭の桜なんだ。根元に咲くなんて初めて見たから……」
「思わず撮影したってことですか? 工藤先生ってロマンチストなんですね」
詩織の指摘に淳一は思わず顔を赤らめた。
「これを頼むにどんなに恥ずかしかったか解るよ。だから誰にも言わない。もし体に傷が残ったとしても……責任は俺が取るから」
「責任って? 確かさっきも……」
「結婚ってことだ。卒業したら、俺がもらってやる。いや、違うな。俺は君に惚れた。だから俺と付き合ってくれないか?」
「そんな……私にだって選ぶ権利はあるのに」
「解ってる。それでも、結婚することを前向きに考えてくれよ。勿論、誰にも内緒だよ」
詩織は淳一の言葉に頷いていた。
「勿論私が高校を卒業したらですよね?」
「そのつもりだけど」
「だったら大丈夫。絶対に治してみせる。だから心配しないでくださいね」
詩織はこの時、本気で淳一の負担を軽くすることを考えていたのだった。
勿論、淳一との結婚は嬉しい。
詩織は、淳一がプロポーズしてくれたのだと考えていた。
でも今回の事故の責任を淳一が背負うことはないと思っていたのだった。
実は淳一は自分の発言に驚いていた。
そしてそれによって、何故事故が起こったのかを思い知らされていた。
朝自転車置き場で詩織に会った時から、それが何なのかも知らないで浮かれていた。
その思いにやっと今気付いたのだ。
それは紛れもなく恋心だったのだ。
淳一は校庭に咲いていた桜の写真を撮っていたのだ。
何故それが気になったかと言うと、木の根元に花が咲いていたからだった。
(みんな生きているんだな)
淳一は感動していた。
その後で自転車置き場でおしゃべりしていた詩織に惹き付けられてしまったのだった。
詩織は自分の不注意を悔やんでいた。
《前向きに生きればこその春隣り》は本当は晩冬の季語だ。
それでも敢えて写真の裏にそれを書いた。
淳一は自分の思いを伝えようとプリントしてくれていたのだった。
健気に生きる桜。
その姿を詩織に見てもらいたかったのだと思った。