ほんまの素顔
――タッタッタッ



と足音がこちらに向かって来た。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

来たのはさっきのファミレスに居た彼女。

「あっ…」

俺の声に気づいたのか向こうも俺の顔を見て驚いていた。

「イチゴのアイスクリームとパっ…」

翔の言葉を遮り、

「ブラックコーヒー」

目も見ずにそう言った。

「…ブラックコーヒー飲めたんや」

「まぁなー」

ほんまは飲めへん…。

けど…口が勝手に動いた。

「失礼します、ブラックコーヒーとイチゴのアイスクリームお待たせしました」

彼女が立ち去ろうとすると俺は彼女の腕を掴んで、

「このあと…時間ありますか?」

「あの…?」

戸惑う彼女の腕を掴んだままの俺。

「少しでええから」

「…5時…」

そう言葉を残して彼女は去って行った。

「蓮…」

「翔がさっきの子にようある言うから…」

「蓮、おおきに!!」

「ええから、ええから」

そんな時、

「なぁ、あれしょうれんちゃう?」

「あんま顔見えへん」

ヒソヒソとそんな話が聞こえた。

俺は被っていた帽子を深く被って下を向いた。

「声かけてみる?」

近づいて来る二人の女の子。

すると、

「お客様、こちらのお皿はお下げしても宜しいですか?」

皿にはまだ、食べ物が沢山残っていた。

「まだ…」

「そうでしたか、あまり席を立たないでもらえると助かります」

「すみません」

席に戻る二人の女の子。

「ありがとう」

聞こえるように言うと彼女は近付いて来た。

「私…あんた達みたいな人嫌いやから」

「テレビの前だけニコニコして、見ててイライラすんねん」

…こんなん言われたん初めてや。

「テレビ見てくれてるんや」

「見たくて見てるわけとちゃう…」

「それでもうれしいわ、おおきに」

翔はいつもの笑顔で彼女を見ていた。

「名前教えて下さい」

「菅原莉來ですけど…」

「莉來ちゃん!宜しくな!」

そう言って右手を差し出す翔。

「なに?」

「握手!」

莉來ちゃんは左手で翔の右手を握った。

「あの…!これ渡したくて…」

バックを探り始める翔。

そして翔が取り出したのは…。

「え?」

「もし良かったら…」

翔が鞄から取り出したのはチケット。

「…いりません!」

「お願いします!」

頭を下げる翔。

「おい、翔…!」

「あ、あの…」

戸惑う莉來ちゃん。

「すみません、仕事に戻ってええで」

莉來ちゃんは一礼して去って行った。

「翔…何考えてんねん」

頭を下げていた翔が頭を上げた。

「なぁ、さっき惚れたって聞いてきたやん?」

「あー、うん」

「…ほんまに、しちゃった」

「は?」

しちゃった…って…

まさか…

「ほんまに?」

翔は頷いた。

「そ、か…」

「やっぱりあかんねんかな…」

下を向いたまま話す翔。

俺は何も応える事が出来ひんかった。

「帰ろっか」

「うん!」

会計を済ませ外に出ると、

「あの…!」

店の中から莉來ちゃんが出て来た。

「その…ごめんなさい」

「気にせんといてや…俺が悪いんやし」

アハハと苦笑いする翔。

「莉來ちゃーん」

中から莉來ちゃんを呼ぶ店員さん。

「それじゃ…」

小走りで向かう莉來ちゃんは扉の前でピタリと止まった。

「頑張って下さい!」

そう言って莉來ちゃんは中に入って行った。

すると翔はその場に座り込んだ

「はぁー…」

「翔?」

「謝られたら…逆に嫌やわ」

目に涙をためる翔。

「翔…俺な、」

莉來ちゃんに一目惚れしてしもうたんや。

そんな事言えるわけもなく、

「応援するで」

心にも無いことを口にした。

「蓮に言われると心強いわ」

「何やそれ、笑」

一番の俺の理解者で親友。

でも、ライバルの翔。

今日初めて会った莉來ちゃん。

人生最大の選択…

どないして選択ってこの世にあるんやろ?
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