Time Paradox
2人は隠し通路の繋がっていない客間に入り、扉を閉めた。

「一体どういう事なの?どうして貿易の話にアリティア王国の情勢が出てくるの?」

リリアーナはわけが分からず、早口にそう言い捨てた。

そんな彼女を横目に、アドルフはしばらく考えてから口を開いた。


「…実を言うと父上はアリティア王国の生まれで、エドモンド様とトラブルになったのはそれが原因でもあるんです。」

「…えっと、それはまたどうして…」

「アリティア王国の国王には妻がいないため、力が足りていなかったのは知っていますよね?」

「えぇ。あの国は代々、国王が妻と結婚して儀式を行わなければ、統治に必要な力を持てなかったって聞いた事があるわ。すごく厳しい気候の国だから、まともに人が生活するには誰かが国を安定させなければいけないのよね。」

「その通り。…ですが国王の妻は結婚してすぐに、儀式をする前に亡くなってしまいました。その儀式が出来るのは最初に結婚した妻だけで、再婚したとしても儀式は成功しません。つまり、その時の国王にはなす術がなかったのです。」

「え!それじゃあどうやって統合するまでアリティア王国は保ってきたの?」

「…それが、その儀式を行わなくても力を得る方法があったのです。決して手を出してはいけない、最終手段として残されていました。アリティア王国の隣国、アングリア王国の人々の力を手に入れる事です。」

「…でもどうやってそんな事を…?」

「そんなに難しい話ではありません。ただアングリア王国の人々を捕らえ、全て箱の中に入れてしまえばいいのです。」

「それじゃあ、その間アングリア王国は全く機能していなかったって事?」

「…そうなりますね。アリティア王国の新たな国王となる人物が出てきて、儀式を行うまでの間は。」

「…そんな…!アリティア王国の国王は何て自分勝手なの⁉︎自分の国さえ上手く回ればそれでいいってわけ?」

「…決してそんな事を思っていたわけではありませんよ。彼らには彼らなりの事情があったのでしょう。それに箱に入ったからと言って死ぬわけありませんし、歳も取らないのです。
そしてつい最近、アリティア王国の姫君はアングリア王国の王子と結婚し、儀式を済ませました。
そしてその時に箱の中のアングリア王国の人々も解放したのです。」

「そういうことだったのね!その時アリティア王国がどうなっていたのかは分かったわ、理解した。…でもそれがお父様とマーカス様の問題に何の関係が?」

「あ、そういえばその話でしたね。
エドモンド様はアリティア王国の国王がした事に不満を持ちました。それでアリティア王国の出身者である僕の父上をこの城から追い出そうとして、トラブルになったらしいのです。噂なので本当かどうかはよく分かりませんが。」

リリアーナはその話に驚きを隠せなかった。特に隠す気もなかったのだが。

「だ、だって…そんな事あるわけないわ!あんなお父様が唯一信用していた人なのよ⁉︎」

リリアーナはそこまで言ったところで思い出した。

「…あんなお父様は人を信用出来なかった、極度の人間不信だったのよ!だからそんなマーカス様を信用出来なくなってしまった…ありえるようなありえないような…」

「…ですが、いくらアリティア王国に不満を持っていたとしても、エドモンド様と父上には関係ありませんよね?…その事をエドモンド様も分かっていたとしたら、ありえない話なのでは?」

「…そうなのよね…」

2人は考え込んでしまった。
< 107 / 229 >

この作品をシェア

pagetop