Time Paradox

すると突然、部屋の時計がオルゴールを鳴らした。

みんなが一斉に振り返ると、時計の針はちょうど夕方の５時を指していた。

「大変です！７時からパーティーが始まる予定なのに…」

ルーカスが言うと、みんなは慌てて立ち上がった。

「アドルフ様、ハンナ様、今からお部屋へ案内いたします。そこでお着替えをなさってください。」

「分かったわ、ありがとう！」

二人は言われるままにそれぞれの客間へ通された。

リリアーナには前と同じようにデイジーが付き、ドレス選びを手伝った。


「リリアーナ様、今夜はいかがなさいますか？」

「うーん、何でもいい気がするけど…。」

リリアーナがそう言うと、デイジーはクローゼットの中から、全体的に淡いラベンダーのような色のドレスを取り出した。

「うわぁ、素敵！」

リリアーナが嬉しそうに言うと、デイジーは微笑んでクローゼットからドレスの下に履くパニエを取り出した。

「…アドルフ様がこの屋敷に来ると、毎回パーティーにはたくさんの人が参加するんです。今夜も舞踏室は人で溢れ返りますよ。それなのに、ドレスを適当に選んでしまうだなんてもったいないことですよ。…余計なお世話かもしれませんが。」

デイジーはリリアーナにパニエを履かせながらも、少し羨ましそうに言った。

「デイジー…。」

「リリアーナ様、髪を整えますからこの椅子に座ってください！」

デイジーは話題をそらすように元気にそう言うと、リリアーナを鏡の前の椅子に座らせた。

髪を軽く巻いてから、編み込みに花飾りなども巻き込んでハーフアップにし、結び目にドレスと同じ色のリボンを結ぶ。

「はい、髪は完成いたしました！次はメイクの方をしていきますね。」

デイジーはリリアーナのメイクも完璧に仕上げると、合わせ鏡で後ろの方も見せてくれた。

「ありがとう！デイジーって本当に器用ね！」

「もう何年もやっていますから。とっても綺麗ですよ！」

デイジーはそう言って、いつの間にか迎えに来ていたルーカスの方にリリアーナを連れて行った。

「リリアーナ様、お時間です。」

リリアーナは一度デイジーの方に笑顔を見せ、手を振った。

そしてルーカスが手を差し出すと、リリアーナも軽く膝を折ってから手を乗せた。


デイジーは二人が部屋から出て行くのを見守った後、一人部屋の壁にもたれかかった。

「いいなぁ…」

そう呟くと、服の中に隠して首から下げていたロケットペンダントを取り出し、チャームを開けた。

そこには、幸せそうに写る家族の写真が入っている。

「…でも、頑張らなきゃ。」

デイジーは一番上の姉で、下にはまだ幼い二人の兄弟がいるのだ。

父親が城で働いていた時は裕福だったが、その父親が数年前に腰の骨を折り半身不随になってしまったのだ。

働き手である父親が寝たきりになってしまい、今は母とデイジーの収入で何とか食いつないでいる状況だ。

だが父親が怪我をしたのは５年前で、あの事件よりも新しい出来事である。

もしかしたら過去に戻った時、父はもちろん家族をも救う事が出来るかもしれない。

デイジーはロケットを服の中に仕舞うと、駆け足で舞踏室へと向かった。