Time Paradox
その頃リリアーナは、今やっとアドルフとダンスを終えたところだった。
それもそのはず、たくさんの人が挨拶をしようと押し寄せてきていて、なかなかゆっくりする暇がなかったのだ。
リリアーナはジャックの方を見ると、壁の花のようになっているルーカスの隣でぼんやりしているところだった。
ジャックもルーカスも、踊る気がないようだ。
「気になるのでしょう?」
後ろからアドルフが話しかけてくる。
「気になるって…」
「僕も気になりますよ。二人とも、このままでいいんでしょうか?」
アドルフの目線はジャックとルーカスのいる方向あるようだ。
「…ジャックとルーカスのこと?」
リリアーナが神妙な顔つきでそう言うと、アドルフは笑いながら弁解した。
「違いますよ!ハンナ様とジャック様がどうするのか、という事ですよ。」
「…あ、あぁ!そう言うことね!」
「それで…行かないんですか?」
その言葉にリリアーナはもう一度ジャックの方を見ると、ジャックもこっちを見ていたのか視線がぶつかった。
「今ですよ、ハンナ様!」
「で、でも…」
アドルフがリリアーナの背中を押す。
ジャックに遠くからではあるが一部始終を見られていたリリアーナは、意を決して彼の方へ歩いて行った。
「相手がいないんでしょ?」
顔が火照るのを感じ、リリアーナはついそんな言い方をしてしまった。
「女が一人でいたらそうなるけど、残念ながら男はそうじゃない。俺もルーカスさんも、あくまでパーティーの様子を眺めてるだけだ。」
ジャックもなかなかの意地っ張りで、リリアーナの方を見もせずに答えた。
お互いに、なかなか「一緒に踊ろう」という一言が言い出せずにいると、意外にもルーカスが話に入ってきた。
「それならお互いちょうどいいんじゃないですか?それにジャックさん、女性を余らせないのが紳士の中での暗黙の了解ですよ。」
頑なに踊ろうとしなかったルーカスだが、自分を棚に上げてそう言う。
「…そうよ。女性が誘われるのを待って、男性が女性を余らせない…そうやって舞踏会は成り立ってるんだから!」
リリアーナは自分でも何を言っているのかよく分からないが、ルーカスに感謝しつつ、とりあえずその意見に便乗した。
「…分かったよ。余りもので可哀想だし、俺が踊ってやる。感謝しろよ!」
「…偉そうに…言っておくけど、私が気を使ってあげてるんだからね?」
リリアーナはそんな事を言いつつも、意地っ張りな大きな手を握りしめた。
ルーカスはその様子を笑いつつも、二人の間にあるものを何となく察していた。
リリアーナはジャックを引っ張るようにホールの中心に連れて行くと、やがて音楽が始まった。
ジャックは意外とダンスが上手なようで、リリアーナが特に頑張らなくても上手く踊れているような気になってしまうのだ。
なんとなくその流れに身を任せていると、ジャックから話を振ってきた。
「リリアーナ、アドルフ様とは上手くやってるのか?」
「えっ?」
「いや、初恋の相手と結ばれるって幸せな事だろ?」
「…それは、そうなんだけど…」
リリアーナはあの計画を打ち明けようか迷っていると、不意にアドルフと目が合った。
その目はまるでリリアーナを勇気付けようとしてくれているようで、彼女も決意を固めた。
「…それが、今は好きじゃないの。」
その言葉にジャックは驚いてリリアーナの顔を見る。
「だから、未来を変えて戻った時には結婚はしない事にしたの。」
「…でも、アドルフ様は…」
「アドルフは許してくれたわ。…彼には本当に感謝してる。」
「でももし過去からまた戻って来た時、アドルフ様と結婚してたらどうするんだ?」
「…たしかに…それは考えた事なかったわ。」
あの日の出来事を変えるように仕向ける事はできても、現在に戻って来るまでの間のハンナの気持ちはどうにもならないのである。
絵本でも、過去に行った後にハンナが戻ってくるのは、過去に行く魔法を使ったその瞬間と書いてあったのである。
例えば11月13日の今日に6年前のあの日まで遡った場合、戻ってくるのはあの日から6年後の11月13日、すなわち今日なのである。
ということは、リリアーナが現在に戻ってくるまでの間は何が起こるか分からないのだ。
リリアーナは考え込んでしまい、後は何も話さなかった。
それもそのはず、たくさんの人が挨拶をしようと押し寄せてきていて、なかなかゆっくりする暇がなかったのだ。
リリアーナはジャックの方を見ると、壁の花のようになっているルーカスの隣でぼんやりしているところだった。
ジャックもルーカスも、踊る気がないようだ。
「気になるのでしょう?」
後ろからアドルフが話しかけてくる。
「気になるって…」
「僕も気になりますよ。二人とも、このままでいいんでしょうか?」
アドルフの目線はジャックとルーカスのいる方向あるようだ。
「…ジャックとルーカスのこと?」
リリアーナが神妙な顔つきでそう言うと、アドルフは笑いながら弁解した。
「違いますよ!ハンナ様とジャック様がどうするのか、という事ですよ。」
「…あ、あぁ!そう言うことね!」
「それで…行かないんですか?」
その言葉にリリアーナはもう一度ジャックの方を見ると、ジャックもこっちを見ていたのか視線がぶつかった。
「今ですよ、ハンナ様!」
「で、でも…」
アドルフがリリアーナの背中を押す。
ジャックに遠くからではあるが一部始終を見られていたリリアーナは、意を決して彼の方へ歩いて行った。
「相手がいないんでしょ?」
顔が火照るのを感じ、リリアーナはついそんな言い方をしてしまった。
「女が一人でいたらそうなるけど、残念ながら男はそうじゃない。俺もルーカスさんも、あくまでパーティーの様子を眺めてるだけだ。」
ジャックもなかなかの意地っ張りで、リリアーナの方を見もせずに答えた。
お互いに、なかなか「一緒に踊ろう」という一言が言い出せずにいると、意外にもルーカスが話に入ってきた。
「それならお互いちょうどいいんじゃないですか?それにジャックさん、女性を余らせないのが紳士の中での暗黙の了解ですよ。」
頑なに踊ろうとしなかったルーカスだが、自分を棚に上げてそう言う。
「…そうよ。女性が誘われるのを待って、男性が女性を余らせない…そうやって舞踏会は成り立ってるんだから!」
リリアーナは自分でも何を言っているのかよく分からないが、ルーカスに感謝しつつ、とりあえずその意見に便乗した。
「…分かったよ。余りもので可哀想だし、俺が踊ってやる。感謝しろよ!」
「…偉そうに…言っておくけど、私が気を使ってあげてるんだからね?」
リリアーナはそんな事を言いつつも、意地っ張りな大きな手を握りしめた。
ルーカスはその様子を笑いつつも、二人の間にあるものを何となく察していた。
リリアーナはジャックを引っ張るようにホールの中心に連れて行くと、やがて音楽が始まった。
ジャックは意外とダンスが上手なようで、リリアーナが特に頑張らなくても上手く踊れているような気になってしまうのだ。
なんとなくその流れに身を任せていると、ジャックから話を振ってきた。
「リリアーナ、アドルフ様とは上手くやってるのか?」
「えっ?」
「いや、初恋の相手と結ばれるって幸せな事だろ?」
「…それは、そうなんだけど…」
リリアーナはあの計画を打ち明けようか迷っていると、不意にアドルフと目が合った。
その目はまるでリリアーナを勇気付けようとしてくれているようで、彼女も決意を固めた。
「…それが、今は好きじゃないの。」
その言葉にジャックは驚いてリリアーナの顔を見る。
「だから、未来を変えて戻った時には結婚はしない事にしたの。」
「…でも、アドルフ様は…」
「アドルフは許してくれたわ。…彼には本当に感謝してる。」
「でももし過去からまた戻って来た時、アドルフ様と結婚してたらどうするんだ?」
「…たしかに…それは考えた事なかったわ。」
あの日の出来事を変えるように仕向ける事はできても、現在に戻って来るまでの間のハンナの気持ちはどうにもならないのである。
絵本でも、過去に行った後にハンナが戻ってくるのは、過去に行く魔法を使ったその瞬間と書いてあったのである。
例えば11月13日の今日に6年前のあの日まで遡った場合、戻ってくるのはあの日から6年後の11月13日、すなわち今日なのである。
ということは、リリアーナが現在に戻ってくるまでの間は何が起こるか分からないのだ。
リリアーナは考え込んでしまい、後は何も話さなかった。