Time Paradox
不思議な事に、このボートには運転する人がいるわけでもないのに、漕ぐためのオールが付いていなかった。


ボートはアーニャ川の流れにそってゆっくりと進み始めた。

リリアーナが不思議に思って見ていると、ジャックが話しかけた。


「リリアーナ様、どうかしましたか?」

「えっ?あぁ、いや。いただきます。」


そう言ってリリアーナはサンドイッチに手を付けた。


「…お味の方は?」

「すごく美味しい!さすが街一番のサンドイッチね!」

「実はそれ、私が個人的に一番美味しいと思っただけなんですけどね…」

「じゃあジャックさんはグルメね!それに、船の上で食べるならサンドイッチで正解かも!」


リリアーナはそう言って笑顔を向けると、ジャックはよそよそしく周りの景色を見た。


「…こうやって見ると見慣れたモンフォワーシュの街も綺麗ですね。」

「…きっとルッケルンガルの街も、同じくらい綺麗だったはずのに…どうしてちゃんと見ようとしなかったのかしら…。」

リリアーナは自分のいた国を思い出し、寂しさに駆られていた。


「…ルッケルンガルへはまた帰れますよ。遠いから切符は高いですけどね。」

ジャックはそう言って微笑んだ。


「…そうね、じゃあお金貯めておかなきゃ。そういえばまだ聞かされてなかったけど、私の新しい就職先ってどういう所なの?」

リリアーナは一番重要な事を聞くと、ジャックの表情が一瞬曇ったように見えた。

「…どういう仕事なの…?」

心配になったリリアーナは、もう一度聞き返すと、間を空けてジャックが答えた。



「…リリアーナ様は、お城に仕える事になります…」

「なんだ!そんな事?」


ジャックのなんともない答えに拍子抜けしたリリアーナは、安堵のため息を漏らした。


「何か体売ったりする仕事かと思ったじゃない!」


そう言ってリリアーナは笑った。
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