Time Paradox
リリアーナは目を覚ますと、いつもと違う天井が視界に入った。
「…そっか、私はいまアーノルド家にいるんだったわ…」
リリアーナはそう呟きながら伸びをすると、立ち上がって宿泊するために持ってきていた自分の荷物を探した。
だが、アーノルド家に来てリリアーナが通された部屋とは間取りが全く違う事に気が付いた。
まず明らかに広さが違い、リリアーナの部屋の半分ほどしかないようだった。
だが突然、部屋のドア付近の角から物音が聞こえた。
リリアーナが身を硬くしていると、角からはカチャカチャというカップと受け皿がぶつかり合う音が聞こえ、お手伝いさんの制服を着た少女が顔を出した。
その少女は硬い表情をしながら、ベッドの脇のテーブルに紅茶を置いた。
どうやらこの少女は、リリアーナがこの屋敷に初めてやって来た時、ドレスを着せてくれたあの無愛想な子のようだ。
「私が仕事を終えて部屋に戻ろうとした時、ハンナ様が廊下の椅子で寝ていたので…」
「部屋に運んでくれたのね!わざわざごめんなさい、ありがとう!」
リリアーナはお礼を言いながら笑顔を向けると、少女は俯いた。
リリアーナが不思議に思って首を傾げると、その少女はおずおずと口を開いた。
「…酔い覚ましにでも、なればと思いまして…」
そうお茶を勧める手は明らかに震えている。
「…もしかして…」
リリアーナが小さな声で言うと、少女の強張っていた身体が大きく揺れた。
少女は動揺を隠すように自分の両手を握り締めると、何も分からないとでも言うような顔をした。
リリアーナはもう一度お茶の方に視線を戻すと、少女に優しく笑いかけた。
「何でもないわ。お気遣いをありがとう、いただきます。」
リリアーナはそう言ってカップに口を付けると、少女が息を呑むのが聞こえた。
だが、リリアーナはそれを王妃らしい上品な態度で飲み干して見せた。
「ごちそうさまでした。紅茶を淹れるのが上手なのね。」
少女は何の変化もないリリアーナを見て目を丸くした。
「…どうして…。」
「私達は毒に慣れるように、小さいうちから訓練されているの。最初はほんの少しから始めて、毎日少しずつ量を増やしていくの。そうすることである程度の量の毒になら耐えられるようになるのよ。」
少女は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。
「…誰に頼まれたの?あなたのようにまだ幼い子がそんな事を考えるとは思えないわ。」
少女はその言葉に顔を上げ、濡れた睫毛に囲まれ充血している目をリリアーナに向けた。
だがまた目を逸らし、暗い顔をして言った。
「…私の口からは言えません…言ってしまったらどんな事になるか…。」
その答えに、リリアーナは少し考えてから質問を変えた。
「じゃあ…正直に話して。どうしてあなたはその頼みを引き受けたの?」
「…それは…脅されたんです…前の政権に反対する偉い人に…。」
「…それはつまり…私やお父様を恨んでるような人達…ってことよね?」
「いえ、人達って言うよりは…私に頼んで来た人は一人だったって言うか…。」
「その人が誰にも言伝をせず、直接あなたに頼みに来たって事ね?」
リリアーナが言うと、少女はおずおずと頷いた。
「…じゃあ、ヒントをくれる?あなたに頼みに来た人はお城に住んでるくらいの人なの?それから…その人もアリティア王国の人?」
少女は二度頷いた。
「そうなのね。お城にいるアリティア王国の人間…まさか!」
リリアーナの頭の中にはマーカスの顔が浮かんできたが、国王であるマーカスとこの少女との繋がりが見つからない。
第一、もしマーカスのような位の人間であれば、誰かに言伝を頼むだろう。
「お城に住んでいるアリティア王国の人って…何人くらいなのかしら?」
「…私の知っている限りですが、マーカス様とその人の二人だけだと思います。」
「そうなのね…じゃあ怪しい人がいたら聞いてみるわ。それから…私は何も聞いてない事にしておいてね?」
リリアーナは最後にそう念を押すと、口が開いたままの少女を残し、部屋を出て行った。
「…そっか、私はいまアーノルド家にいるんだったわ…」
リリアーナはそう呟きながら伸びをすると、立ち上がって宿泊するために持ってきていた自分の荷物を探した。
だが、アーノルド家に来てリリアーナが通された部屋とは間取りが全く違う事に気が付いた。
まず明らかに広さが違い、リリアーナの部屋の半分ほどしかないようだった。
だが突然、部屋のドア付近の角から物音が聞こえた。
リリアーナが身を硬くしていると、角からはカチャカチャというカップと受け皿がぶつかり合う音が聞こえ、お手伝いさんの制服を着た少女が顔を出した。
その少女は硬い表情をしながら、ベッドの脇のテーブルに紅茶を置いた。
どうやらこの少女は、リリアーナがこの屋敷に初めてやって来た時、ドレスを着せてくれたあの無愛想な子のようだ。
「私が仕事を終えて部屋に戻ろうとした時、ハンナ様が廊下の椅子で寝ていたので…」
「部屋に運んでくれたのね!わざわざごめんなさい、ありがとう!」
リリアーナはお礼を言いながら笑顔を向けると、少女は俯いた。
リリアーナが不思議に思って首を傾げると、その少女はおずおずと口を開いた。
「…酔い覚ましにでも、なればと思いまして…」
そうお茶を勧める手は明らかに震えている。
「…もしかして…」
リリアーナが小さな声で言うと、少女の強張っていた身体が大きく揺れた。
少女は動揺を隠すように自分の両手を握り締めると、何も分からないとでも言うような顔をした。
リリアーナはもう一度お茶の方に視線を戻すと、少女に優しく笑いかけた。
「何でもないわ。お気遣いをありがとう、いただきます。」
リリアーナはそう言ってカップに口を付けると、少女が息を呑むのが聞こえた。
だが、リリアーナはそれを王妃らしい上品な態度で飲み干して見せた。
「ごちそうさまでした。紅茶を淹れるのが上手なのね。」
少女は何の変化もないリリアーナを見て目を丸くした。
「…どうして…。」
「私達は毒に慣れるように、小さいうちから訓練されているの。最初はほんの少しから始めて、毎日少しずつ量を増やしていくの。そうすることである程度の量の毒になら耐えられるようになるのよ。」
少女は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。
「…誰に頼まれたの?あなたのようにまだ幼い子がそんな事を考えるとは思えないわ。」
少女はその言葉に顔を上げ、濡れた睫毛に囲まれ充血している目をリリアーナに向けた。
だがまた目を逸らし、暗い顔をして言った。
「…私の口からは言えません…言ってしまったらどんな事になるか…。」
その答えに、リリアーナは少し考えてから質問を変えた。
「じゃあ…正直に話して。どうしてあなたはその頼みを引き受けたの?」
「…それは…脅されたんです…前の政権に反対する偉い人に…。」
「…それはつまり…私やお父様を恨んでるような人達…ってことよね?」
「いえ、人達って言うよりは…私に頼んで来た人は一人だったって言うか…。」
「その人が誰にも言伝をせず、直接あなたに頼みに来たって事ね?」
リリアーナが言うと、少女はおずおずと頷いた。
「…じゃあ、ヒントをくれる?あなたに頼みに来た人はお城に住んでるくらいの人なの?それから…その人もアリティア王国の人?」
少女は二度頷いた。
「そうなのね。お城にいるアリティア王国の人間…まさか!」
リリアーナの頭の中にはマーカスの顔が浮かんできたが、国王であるマーカスとこの少女との繋がりが見つからない。
第一、もしマーカスのような位の人間であれば、誰かに言伝を頼むだろう。
「お城に住んでいるアリティア王国の人って…何人くらいなのかしら?」
「…私の知っている限りですが、マーカス様とその人の二人だけだと思います。」
「そうなのね…じゃあ怪しい人がいたら聞いてみるわ。それから…私は何も聞いてない事にしておいてね?」
リリアーナは最後にそう念を押すと、口が開いたままの少女を残し、部屋を出て行った。