Time Paradox
このパーティーはアドルフとリリアーナの婚約を公表するもので、二人は軽いスピーチをしなければならない。


二人は緊張した面持ちで壇上に上がると、会場の人達が期待を込めた眼差しで、今か今かと二人の言葉を待っている。


アドルフは深くお辞儀をすると、マイクを手に取り、スイッチを入れた。

「本日はこのような会を開いていただき、誠にありがとうございます。また、お忙しい中このパーティーに足をお運びくださった方もいらっしゃることと思い、嬉しい限りです。
私達はこれより、正式に結婚を致しますことを発表させていただきます。」

そう言ってアドルフはリリアーナにマイクを手渡し、何か言うように促した。

リリアーナは会場を見渡し、大きく息を吸った。


「王妃という責任の重い役割ではありますが、私なりに精一杯務めさせていただきたいと思います。私が王妃となる事に少なからず不満を抱いている方もいらっしゃるでしょう。私自身、この城に戻ってくる資格などないのではないか、と思っておりましたから。」

そこまで言ったところで、リリアーナは少し間を置いて言葉をまとめた。

「…でも、今ここに立ったことで気付いた事があります。それは、こんな私にも期待してくださる方がいるという事です。」

そうリリアーナが言うと、一瞬で会場は湧き上がる歓喜に包まれた。

それが収まると、リリアーナはまた話し出した。

「皆様の温かい目や祝福に、心から感謝いたします。つたないスピーチでしたが、ご静聴ありがとうございました。」

リリアーナがそう言って深くお辞儀をすると、会場はまた歓声と拍手に包まれた。

そしてリリアーナがアドルフにマイクを渡すと、誰かが二人に乾杯のグラスを手渡した。

「それでは乾杯の音頭を取らせていただきます。モンフォワーシュのより一層の繁栄を祈りまして…乾杯!」

会場の人々も後に続き、グラスを掲げた。


それを見届けると、二人はお辞儀をして壇上から降り、安堵の溜息をもらした。

そうこうしている間も、二人のもとには挨拶をしようと人だかりができている。


「アドルフ様、ハンナ様、ご婚約おめでとうございます。」

「私共々、お二人方を期待し応援しております。」

この二人の貴族を皮切りに、続々と挨拶をする人が押し寄せてきた。
< 126 / 229 >

この作品をシェア

pagetop