Time Paradox

密会

月末に控えている結婚式が近づくにつれ、着々と準備が進められていた。

リリアーナとアドルフの二人は、ルイスのレッスンや挙式の話し合いなどで大忙しだった。


「本日のお二人のご予定は…午前はスピーチの原稿作りと挙式の流れの話し合い、午後からはお作法のレッスン、夕食を挟んで挙式の流れの確認…となっております。」

アドルフは、思わずため息を漏らしたリリアーナを一瞥した。
というのも、ここ数日毎日同じようなスケジュールなのだ。

リリアーナにとって特に憂鬱なのはルイスのレッスンだ。
最も眠くなる昼下がり、そしてスケジュールの約半分ほどを占めているであろう昼食後から夕方まで、ずっとルイスの嫌味に耐え続けなければならないのだ。


そしてこの日のルイスのレッスンが終わったリリアーナは部屋に戻ると、バルコニーからぼんやり外を眺めた。

リリアーナはオレンジに染まるモンフォワーシュの街を見ながらも、早く過去に戻って現在を変えたい一心だった。

そして、こうして街を見下ろしていればジャックの姿が見えたりするのではないか、という気持ちがどこかにあった。

「そうだわ！隠し通路があるじゃない！」

リリアーナは一人でそう呟くと、クローゼットを開け、顔が隠れるような帽子と庶民的な服に着替え、こっそり持ってきていたグリーンのコンタクトをつけた。

そしてクローゼットの中に入り込み、隠し通路へと続く扉を開けた。

誰もいないことを確認し、扉を閉めて静かに通路を駆け出した。

やはり何年経っても自分の部屋から隠し通路へ出る瞬間は鼓動が速まり、ランタンを持つ手も震えてしまうようだ。

それでも真っ直ぐに伸びる通路を駆け抜け、行き止まりの壁のようにも見える扉の前までたどり着いた。

夕食までまだ時間はある。
リリアーナは壁を回し、地上へと続く階段も駆け上がった。

そっと蓋を押し上げ、360度誰も居ないことを確認してから外に出た。

そして久しぶりに吸う城の外の空気を感じながら、魔法でジャックに居場所を伝えた。

リリアーナはさっき出てきた通路へと繋がる蓋をちらりと見たが、森から伸びている緑の草で覆われていて見分けが付かず、無事戻ることができるのか不安になるほどだった。

そして程なくしてジャックが姿を現した。

「リリアーナ？」

「ジャック！」

リリアーナは抱きつきたくなる感情を抑えながらも、顔が思わずほころんでしまうのを感じていた。

ジャックはリリアーナに駆け寄ると、リリアーナの顔を一度覗き込んでからきつく抱き締めた。
そしてジャックの鼓動はびっくりしているリリアーナと同じくらい速い。

「…ジャック？」

するとジャックはハッとしてリリアーナを放した。

「…ごめん、リリアーナ。」

そう呟くと目を逸らしたが、リリアーナは微笑んで首を振った。

「私も同じことしようと思ってたの。なんか顔見たら安心しちゃって。」

そう言うと、今度は目を丸くするジャックをリリアーナが抱き締め、やがてジャックもそれに応えるようにリリアーナの背中に腕を回した。

「元気にしてたか？」

ジャックが聞くとリリアーナは首を横に振り、ため息をついた。

「毎日同じことの繰り返しで…家庭教師のルイスは面倒な人だし、お昼の後で眠たいし！」

そう言い放つリリアーナにジャックは思わず吹き出した。

「なんか悩みでもあんのかと思ったら…そんなことか！」

ジャックにそう言われると、途端に自分の憂鬱だったことが馬鹿馬鹿しくなったのか、リリアーナも笑い出し、二人はひとしきり笑った。

「そう言えば…セドリックは元気？」

「あぁ、相変わらずだよ！そうだ、セドリックも過去に連れて行きたいと思ってたんだよ！」

ジャックはリリアーナの肩を掴んで離すと、目を見て言った。

「そうね！一緒に行きましょう！」

そう言ってリリアーナは頷いた。