Time Paradox
リリアーナは部屋に誰もいないことを確認してから、鏡をずらし、部屋に入った。

そしてワンピースについていたエプロンを外し、帽子とコンタクトを外した。

廊下では時間になっても夕食に来ないリリアーナを探しているだろう。
街で目立たないよう着替えた地味なワンピースでは怪しまれそうだ。

リリアーナはまた隠し通路に入り、そっと自分の部屋の扉を回した。

クローゼット越しに聞こえる物音はない。

リリアーナは出掛ける時に着替えてそのままにしておいた普段着用のドレスを手に取ると、少しだけクローゼットの扉を開けて中を確認した。

その時、アビーのリリアーナを探す声が廊下から聞こえてきた。

「ハンナ様ー!どこにいらっしゃるんですかー?」

その声にリリアーナがそっとクローゼットを閉めたとき、ちょうどアビーが入ってきた。

「ハンナさ…いないわよね。でもきっと今日もマーカス様は遅れてくるはずだしまだ大丈夫よね。」

そう言って、アビーはまた廊下を探しに部屋を後にした。

部屋のドアが閉まる音を聞いてからクローゼットの扉を開け、リリアーナは大急ぎで着替えた。

そしてそっと部屋を出ると、いつもの夕食を摂る場所へと向かった。

リリアーナが階段の前まで来たところで、ちょうどアビーも階段を降りて来ているところだった。

「アビー!夕食に遅れてごめんなさい!きっと城中を探し回ったのよね…」

「ハンナ様!いえ、ハンナ様のよくいらっしゃる場所を探していたところです。まだアドルフ様とマーカス様も食堂にいらしていないようなので。」

「そうなのね!ありがとう!」

そう言ってリリアーナは食堂に急いだ。



リリアーナはそっと扉を開けると、まだ一つ空席があるが、マーカスの席のようだった。

リリアーナは扉を閉めた。

「遅れてすみません…。」

「あら、大丈夫よ!いつもマーカスが遅れてきてるから!」

クラリスがにこやかに言った時、ちょうど食堂の大きな扉が開いた。

噂をすれば…というよりはタイミングが良かったのだろう、マーカスが自分の肩を揉みながらゆっくりと腰を下ろした。

「みんな揃ったわね?」

「あぁ。いただくとしよう。」

全員が声を合わせて"いただきます"の挨拶をし、食事が始まった。

クラリスとマーカスの会話を横目に、リリアーナは無意識にジャックのことを考えていた。

ジャックとの約束は11時だが、時計を見ると今は大体7時半くらいだ。

あと4時間半…8時過ぎには食事を終えるとして、そこから10時くらいまでは会場で挙式の流れの確認をする。

それから部屋に帰ってシャワーを浴びたりすればちょうど11時くらいになるだろう。

「ハンナったら、そんなにニヤニヤしちゃって…何かいいことでもあったの?」

そう言うクラリスが一番ニヤニヤしているように見えるが、リリアーナはハッとして首を振った。

「思い出し笑いをしやすいんです。恥ずかしい…」

リリアーナは顔を赤くしながらも、早めに夕食を済ませた。
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