Time Paradox
「…ルクレツィアさん？」

ルクレツィアは一度俯いたが、髪をかき上げながら顔を上げ、またいつもの表情でジャックを見据えた。

「…いいの。続けて？」

「…あぁ。それで一応リリアーナの住むアパートも用意して、一度はマーカス様にも差し出そうとしたんです。でも今度はアーノルド家…」

「知ってるわ、あの貿易商の貴族よね。」

「はい。そのアーノルド家の手下に拐われてしまったんです。でもリリアーナがアーノルド家の家族の問題を解決して開放してもらい、また元のアパートに戻って来ました。それで俺とリリアーナは今のレストランでバイトを…」

ジャックはそこまで言ったところで言葉を止めた。

まだ知り合ったばかりのルクレツィアに、そこまでのことを話しても大丈夫なのだろうか。

沈黙の中、ルクレツィアはジャックを穴が開くほど見つめている。

「それで…話の続きは？」

ルクレツィアに促されるが、ジャックは首を振った。

「あんまり話すとリリアーナに怒られるので。」

ジャックは冗談っぽくそう言うと、肩をすくめた。

「…じゃあ聞かせて。リリアーナさんとジャックはどんな関係なの？」

なぜかルクレツィアの顔がさっきよりも強張っているように見える。

「別にリリアーナとは何も…この世界に連れてきた時から一緒なので繋がりがあるだけですよ。アーノルド家の人達と同じで。」

「…ふぅん。」

ルクレツィアはまた口元に笑みを浮かべると、ジャックを見つめた。

「まだあなたはフリーってことね？」

ルクレツィアはそう言ってジャックの腕に自分の腕を絡めた。

「…何でもいいですけど、俺そろそろ帰りますね。」

ルクレツィアは目を見開いた。

「何で〜⁈」

「…今日父さんが家の鍵忘れたみたいなので、俺が早く帰って開けないと。」

ルクレツィアはまだ不満そうな顔をしていたが、しぶしぶ頷いた。

「いいわ、きっとまた会ってくれるわよね？」

「…まぁ、時間があれば。もう暗いので送りますよ？」

「…ありがとう。でもここから私の家はすぐそこだわ。」

そう言ってルクレツィアはジャックを引き寄せると、戸惑う唇に軽くキスをした。

「…またね？」

ルクレツィアは小さく手を振ると、少し奥まったところにある屋敷の門へと姿を消した。
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