Time Paradox

エラはアーノルド家に着くとすぐ、イザベラの部屋へと向かう。

いつものように着替えを手伝い、一度部屋から出ると、準備されている朝食をまた部屋まで運び、午前の仕事は終了した。

侍女は厨房の手伝いなどを頼まれない限り、着替えや食事、お茶の用意以外の仕事をすることはない。

エラは母に言われた通り、デイジーの様子を伺うべく、中庭へと向かった。

この時間は大体、デイジーが花に水やりをしている。

中庭へ行くと、デイジーはよほど機嫌が良いのか鼻歌を歌いながらジョウロに水を汲んでいる。

アーノルド家の中庭の中心には井戸があり、噂ではその井戸は異次元へと繋がるポータルとなっているらしい。

エラは近くのベンチに腰掛けると、本を読むふりをしてデイジーの様子を観察した。


しばらくすると、ルーカスが中庭に入り、まっすぐデイジーの所へと歩いて行った。

エラは目を落とすと、また本を読んでいるふりをする。

「おはよう、デイジー！毎日水やり大変じゃないか？」

「全然！この時間は暇だし、毎日水やりをしないとこの子たちも枯れちゃうので…」

そう言ってデイジーは美しい庭園を見渡した。

「僕もこの時間はいつも暇だよ。デイジーさえ良かったら、僕も明日からここに来てもいいかい？」

「もちろんです！お茶でも淹れましょうか？」

「じゃあ二人でお茶会をしようか！」

デイジーの冗談にルーカスは楽しそうに便乗する。

こうやって二人が仲良く話すのはきっと初めてではないのだろう、とエラは思った。

「僕も手伝うよ。」

「とんでもない！大丈夫ですよ！」

デイジーは慌てて止めたが、ルーカスはもう一つジョウロを持ってくると、井戸から水を汲み上げた。

「あ、ありがとうございます…」

デイジーが申し訳なさそうにお礼を言うと、ルーカスは気にするなと言うように首を振った。

「そう言えば！もうすぐまたパーティがあるみたいだよ。」

「本当ですか⁈」

ルーカスとデイジーはなぜか声を弾ませていた。

「また踊れるね。今から少しづつでも練習していこうか？」

「私がパーティーで踊るわけでもないのにー！」

「デイジーも参加できるように僕が招待するよ！」

デイジーは冗談で言ったつもりのようだったが、ルーカスは本気で招待しようとしているような口ぶりだ。

「…でも…」

「もう決定だよ。エスコートするパートナーがいなくて困っていたんだ。」

そう言ってルーカスはデイジーに笑みを向けた。

「…なんだか夢みたいです！あんなに憧れて見ていた舞踏会に参加させてもらえるなんて！」

そう嬉しそうに言うと、デイジーは裾を掴んで回った。

「じゃあ、詳しいことは明日のお茶会で決めようか！」

その言葉にデイジーは目を丸くした。

「お茶会って…まさか本気で？」

「そのつもりだよ。この庭のハーブもちょうどいい香りがしてきたし…そうだ！お茶菓子を一緒に買いに行かないか？」

「本当に…？いいんですか⁈」

「あぁ。そうだな、今日のお昼過ぎならちょうど仕事がないんじゃないかい？」

「夕食の時間の２時間前までに戻っていれば大丈夫だと思いますけど…」

「デイジーさえ良かったらだけど…一緒に来てくれるかい？」

「もちろんです！」

デイジーは嬉しそうに頷き、ルーカスはデイジーの手を握っていた。