Time Paradox
ジャックは、アーニャ橋のそばでルクレツィアを呼んだ。

かなり待つことになるだろうと思い、ジャックはルクレツィアが来るまで屋台でサンドイッチを買い、食べながら待っていた。

だがルクレツィアは意外にもすぐに現れた。

「珍しいわ、あなたの方から私を呼び出すなんて！たぶん、初めてじゃないかしら？」

ルクレツィアは上目遣いでジャックを見つめると、妖しい笑みを向けた。

「いや、実は…」

「会いたくなった、とか？」

「いや、話があって…」

ジャックがそう答えると、ルクレツィアは拗ねたような反応を見せた。

これも計算だろうか。

ジャックは封筒から招待状を取り出すと、ルクレツィアに見せた。

「これって…」

「あぁ。パートナーを連れて参加しなきゃいけないんだ。」

「…ふぅん。じゃあ私達ぴったりね？」

そう言って、ルクレツィアはジャックの胸に自分の手を置いた。

「…まぁ、お互いパートナーがいないんだったら。」

ジャックが言うと、ルクレツィアは片方の眉毛だけを器用に上げた。

これは気に食わないという意味の表情だ。

謎の多いルクレツィアだが、ジャックにもなんとなく彼女の事が分かって来たような気がしていた。

「…まぁいいわ。ドレスアップした姿を見せて私に惚れ直すチャンスを与えるわ。」

「つまりそれは…」

「…参加するって意味よ。まったく、恥ずかしいんだからいちいち説明させないで！」

そう言ってルクレツィアは不機嫌そうに腕を組んだ。

恐らく突っ込みを期待していたのだろう。

何はともあれ舞踏会のパートナーは決まり、招待状に丸を付けることができそうだ。
< 155 / 229 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop