Time Paradox

嵐の始まり

舞踏会の当日、リリアーナとアドルフは挨拶を終え、ほっとしているところだった。

音楽は優雅なワルツに変わり、パラパラと参加者達も踊り始めた。

だがその時、急に会場の空気が変わったように感じた。

一部の参加者達の視線はなぜか会場の入り口へと向けられている。

視線の先では、真っ赤なドレスに身を包んだ美しい黒髪の女性が1人の男性にエスコートされている。

その自信に満ち溢れた美しい微笑みを向けられているのは、リリアーナがあれほどまでに待ち続けた人物…他でもない、ジャックである。

ジャックは誰かを探しているかのように周りを見回していたが、夜空のように輝くネイビーのドレスに目を止めた。

ジャックはまるで分かっていたかのような顔で、その場に立ち尽くすリリアーナを見据える。

広い会場の端と端で交わされた視線に、まるで2人の間で時が止まっているようにも感じた。



だがその時、リリアーナはアドルフに腕を掴まれたことによって我に返った。

振り返ると、アドルフが踊りに誘っているようだった。

「…あぁ、そうだわ。せっかくだもの、踊りましょう?」

アドルフは頷き、次の曲が始まるのを待った。

リリアーナはさっきまで視線を向けていた場所に目をやった。

彼は美しいパートナーを連れ、まだそこに立っていた。

嫌な胸騒ぎを感じたあの夜も彼女と一緒だったのだろうか。

何をしていたのかは、嫌でも魔法が教えてくれた。

リリアーナは心臓が苦しく痛むのを感じたが、不思議と涙は出なかった。


そして、次の曲が始まった。
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