Time Paradox
アドルフのリードにより、リリアーナは踊り出した。

だが、ダンスに身が入らないリリアーナは何度もアドルフの足を踏んでは謝ってという行動を繰り返した。


ダンスが終わった頃、リリアーナは一言アドルフに謝り会場を出ると、自分の部屋へと足を進めた。


そっとドアを閉め、おもむろにドレスを脱ぐ。

パニエやコルセットなども案外単純にできている為、ドレスを脱ぐのは1人でも出来るようになっているのだ。

リリアーナはそれらを脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドに上がり、綺麗にセットされた髪を解いていく。

すると電気も付いていないリリアーナの部屋のドアが開く音が聞こえた。

「…ハンナ様、さすがに僕達が抜け出すのは…」

リリアーナの格好に驚いたアドルフは言葉を止めたが、リリアーナは彼に構わず手探りでピンを外していた。

そしてしばらく沈黙が続き、耐え切れなくなったアドルフがまた口を開いた。

「…ジャック様がお見えになったからですね?ですが、この舞踏会も公務ですから…」

「今日はなんだか…踊れないわ。」

リリアーナは彼の方には目もくれず、そう言い放った。

「しかし…」

「…アドルフなんでしょ?招待したの。」

リリアーナは髪に刺さっていた最後のピンを抜き取ると、アドルフをまっすぐ見つめてそう言い放った。

ピンで止められていた毛束がはらりと落ちる。

「パートナー同伴の舞踏会だったから…私が嫌な気持ちになるのを知ってて誘ったのよ。」

アドルフは黙っていたが、リリアーナはまた言葉を続けた。

「でもアドルフはあくまでもきっかけを作っただけ…ジャックが誰かと恋愛関係になってたのは事実だし、今更私がどうこうできる問題じゃないのは分かってるけど…」

そこで初めて、自分の中に悔しい気持ちがあることに気がついたリリアーナの頬には、熱い涙が零れていた。

アドルフがリリアーナの隣に座ると、指でそっと涙を拭った。

「ハンナ様、もうパーティーには戻らないんですか?」

アドルフはそう言って、髪もドレスもすでに自分では元に戻せない状態となったリリアーナを見つめた。

「…戻れるような状態じゃないの分かるでしょ?」

そう言って、寒くなってきたのかリリアーナは横になると、アドルフに背を向け肩まで布団をかぶる。

アドルフは短いため息をつくと、リリアーナの頬を撫でた。
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