Time Paradox
しばらくの間、薄暗い部屋には沈黙が漂っていたが、誰かが扉をノックしたことによってそれは破られた。

「アドルフ様、ハンナ様…大変申し上げにくいのですが舞踏会の方にお戻りいただければ…」

その声にアドルフは扉の方まで歩いて行くと、小声で今のリリアーナの状態を伝えた。

「ハンナ様は体調が優れないのですね…分かりました、皆にはそのように伝えておきます。」

「…よろしく頼んだ。」


話が終わりアドルフが振り返ると、リリアーナは何かつぶやきながら壁にクッションやらを投げつけていた。

「ちょっ、ハンナ様!」

アドルフが掴んだ手も振り切り、今度は枕と布団もめちゃくちゃにしていた。

「何なのよジャックのバカ!それにあの女誰よ!何であんなに美人なのよ‼︎」

そう言ったところでリリアーナはふと手を止めると、おもむろにドレッサーに置いてあったブラシを手に取り、髪をとかし始めた。

腰まであるブロンドの髪は、さっきまで纏められていたため、ウェーブのようになっている。

そして普段着のドレスに着替えると、静かに部屋を出ていった。

扉が閉まる音で我に返ったアドルフだが、慌てて彼女の後を追った。

何か問題を起こす前に止めなければならない。
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