Time Paradox

「そういえば意外でしたわ、ジャック様がこんなに綺麗なパートナーをお連れになるとは…」

気まずくなったイザベラはそう言うと、ルクレツィアは謙遜した。

「いえいえ、ジャックはとっても優しくて…私にはもったいないくらいの人よ。」

「ジャック様とはいつお知り合いになったんですの？」

「そうね…言うならば、私の一目惚れかしら。」

「一目惚れ…素敵ですわ。」

イザベラはリリアーナのことを思い出し、どことなく複雑な気持ちになったが、話の続きを促した。

「ジャックは私のよく通うレストランで働いていたの。最初はかっこいい方だと思って眺めているだけだったんだけど…やっぱり、好きになってしまって。それでついに仕事が終わった後に会う約束を取り付けたの。かなり最近の話ね。でもジャックは私のこと、何とも思っていないみたい。」

「そうなのね…たしかにジャック様はそういう事に疎いような気がするわ。鈍感っていうか…」

「まさにそうなの！ずっとアピールはしているんだけれど…。イザベラ様は誰か気になる方とか…あ、いらしたら御一緒しているわよね…」

「…そうね、あまり他の家の方々との交流がないもので。それで今日は…運命の人探しってところかしら！」

イザベラは最後の一言を冗談交じりに言うと、また話題を戻した。

「なんだか最初にお会いした時は近寄りがたい方なのかと思っていたけれど、ルクレツィア様って意外と親しみやすい方なのね！」

「あら嬉しいわ！…たしかによく言われるのよね。近寄りがたい、人間味がない、お高くとまってる、だなんて。全く、失礼よね？」

「でもルクレツィア様はなんだかお上品だし、貴族か名家のご出身なのかしら？」

「そんなに自慢するほどでもないのよ…父が土地を持っていて、不動産を経営しているくらいだわ。王家との繋がりなんて全くないし…」

「あら、不動産経営されてるのね！そういえば苗字をお聞きしていなかったのだけれど、なんとおっしゃるのかしら？」

「チューリッヒよ、ルクレツィア・チューリッヒ！」

ルクレツィアがそう言って微笑む。

「チューリッヒ…あら、何処かで聞いた苗字…。」

だが、イザベラはどこか思い当たる節があった。

しばらく考えていると、イザベラは思い出したのか、ハッとした。

「そう！エラ・チューリッヒよ！まだ幼いけれど…アーノルド家でお手伝いさんを雇っているの！」