Time Paradox
ルクレツィアの話がひと段落した頃、また執事が扉をノックした。

「アドルフ様…」

「あぁ、悪い…今行くよ。」

そう言ってアドルフは今度こそ部屋を出て行った。


残された二人の間にはまた沈黙が流れた。

一応話をして和解はしたはずなのだが、どことなく納得しきれない部分があるような気がしているのだ。

もっと大事な、根本的な問題が…


「…そもそも俺たち、何でこんなにお互い怒ってるんだ?リリアーナはアドルフ様、俺はルクレツィアさん…何にもおかしくないはずなんだけどな…」

「それは…」

リリアーナもジャックも思うことは同じだが、それを共有してしまうのは何だか悪い事のように思えるのだ。

「…お互いに、そうされるのが嫌なのよね、きっと。ジャックがルクレツィアさんと何かあっても嫌な気持ちになるし…」

「リリアーナがアドルフ様と何かあっても嫌なんだよ…今言えるのはそれだけなんだよな。」

その言葉にリリアーナは頷いた。

「じゃあ約束しましょう?過去に行くまでは私達のこの関係を変えない事、それから…」

「お互いに他の異性との関係を持たない事…だろ?」

二人にとってこれが、何となく気持ちが通じ合った瞬間だった。

関係はこのままでも気持ちは一緒、その事実に二人は安心感を覚えた。

「約束ね?」

「あぁ。今度何かあったら俺に言えよ!また邪魔しに入ってやるから!」

その言葉に二人は吹き出した。

そしてジャックが彼女に向かって両手を伸ばすと、きつく抱き寄せた。

リリアーナもその背中に手を回すと、力いっぱいその気持ちに応えた。

今はまだ、それ以上の事は出来ないし、これ以上の関係には進めないだろう。

だがそれでも気持ちが通じ合っているという事が、今の二人には充分すぎるほど幸せだった。
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