Time Paradox
イザベラとニコラスは踊り終わると、少しホールの端で休んでいた。

「イザベラさんは誰かいい人いないの?」

ニコラスはそう言って赤い液体の入ったグラスを差し出した。

「ありがとう。そうね、あまり他の家との交流がないから…」

「気になってたんだけどさ、イザベラさんのそれって…本物?」

ニコラスはイザベラの話を遮るようにそう言うと、紫色の毒々しいドレスからはみ出る谷間を指差した。

イザベラは気まずそうに自分の谷間を指差して彼に確認すると、ニコラスは悪びれもなく頷いた。

「…あの、人間のボディーに偽物も本物もあります?」

イザベラは少しムッとして答えると、ニコラスは慌てて弁解した。

「いやいや、違うんだ!実は偽物もいたりするんだよぉ!」

「偽物って…だって姿形を変える魔法はどんな魔法でも禁じられているはずよ?」

「…それが、魔法じゃなくても別人になれる裏技があるんだよ。」

ニコラスは声を潜めてそう言い、イザベラは続きを促す。

「姿形…体型はもちろん、可能な限り顔立ちまで変えることができるんだ。」

「そんなの…どうやって?」

「まず人間界に行くんだ。そしてさらに人間界の中でも発達した国に行き、特殊な手術を行う…」

「手術ってことは…一応医療行為なの?」

「そうみたい。俺、怪しいと思うんだよね…あの女。」

「あの女って…?」

「さっきまで一緒にいた…ルクレツィア・チューリッヒだよ。異様じゃないか、あの顔。あんまりにも不自然だよ。」

「…不自然、ねぇ…」

イザベラも、たしかに言われてみれば…と納得してしまった。

彼女の細く尖り、上を向いた高い鼻。
目は眼球が飛び出しそうだし、顎はあまりにも鋭利だ。
…大袈裟な表現かもしれないが。

「それにあの女、親戚である俺達ですら幼少期を見たことがないんだ。エラ・チューリッヒに姉がいたなんて、数年前に判明した事実だよ!」

「ま、待って!チューリッヒ家とデルーロ家って…親戚だったの⁈」

イザベラの言葉に、ニコラスはしまった、と言わんばかりの表情で目を逸らした。

「あ、あなた…ちょっと飲み過ぎなのかもしれないわね!いつも以上にうっかりしてるわ!私もよくやっちゃうのよね!」

イザベラはすかさずそうフォローすると、近くにいたウェイターに水を頼んだ。

「それに心なしか顔も赤いような気がするわ。」

イザベラは水を受け取ると、ニコラスに差し出した。
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