Time Paradox
「…ありがとう。イザベラさんって今いくつだっけ?」

「あぁ、私?今年で20歳になったの。でもどうして?」

「…いや。俺より歳下なのに、意外としっかりしてるんだなぁって。」

「あら、本当?そうかしら!嬉しいけど…そうね、ニコラスさんはもうちょっとしっかりした方がいいと思うわ。」

イザベラは嬉しそうにはにかむと、そう言った。

「…そうか。きっと俺は、何不自由ないこの状況に甘んじてるのかもしれない。黙ってても金は入ってくるし、衣食住には困らない、おまけに女だって簡単に手に入る…。」

一見ナルシストで自意識過剰な発言にも思えるが、どうやら目の前の遊び人にもそういった苦悩があるようで、オレンジがかった茶髪の頭をガシガシと掻きむしっている。

「…よく分からないけれど、何も困ってないのならそれでいいと思うわ。まぁ、困らないのも今のうちだけね…。」

イザベラは少し突き放すようなつもりでそう言ったが、ニコラスははっとして顔を上げた。

「…もしかして、それは俺のために言ってくれてるの?」

「…いやぁ、その…。」

イザベラは返答に困ったが、このポジティブな男がそう受け取ったのならそれでいい。肯定はしないがあえて否定もしなかった。

「イザベラさん、もし良かったら…俺にも何かさせてくれない?」

「何かって…私は何もしてないんだけど…」

イザベラはそう言って首を傾げるだけだったが、ニコラスは御構い無しに手を引いた。

「…待って、どこに行こうとしているの?」

「イザベラさんってきっと…男の人に軽く見られるでしょ?」

ニコラスのデリカシーのない発言にムッとしたが、この時ばかりはイザベラにも心当たりがあった。

実は他の家の男性ともそれなりに交流があるのだが、口説いてくるどんな男も、イザベラと一晩を共にしようという下心が丸見えなのだ。

イザベラはいつからかそれを察してしまい、大体の男性には警戒心を抱いてしまうのだ。


イザベラが考えていると、いつの間にかひんやりとした外の空気に触れていた。

「あの、ニコラスさん!私達どこに…」

「乗って!」

ニコラスは何の説明もなしに、運転手によって開けられた車に抵抗気味のイザベラを乗せた。

「ニコラス様、お帰りですか?」

「行き先は家なんだけど、またすぐ舞踏会に戻ってくるよ。」

「かしこまりました。」

運転手はそう言うと、車を発進させた。

「ニコラスさん、私何も聞かされてないわ!」

「大丈夫!俺の家はここからそうかからないよ!」

「そういう問題じゃ…」

「あ、きたきた!見えてきたよ〜」

イザベラはすっかり彼のペースに乗せられていた。

これ以上抵抗しても無駄だとは思ったが、それでもあからさまに大きなため息をついた。

フロントガラスを覗き込むと、全体的にグレーがかった大きな屋敷が近付いてくる。

その屋敷こそが、モンフォワーシュでも有数の大貴族、デルーロ家のものである。
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